私たちの生活を変える法律はこうして生まれる:超初心者向け解説
はじめに:法律は遠い存在ではありません
私たちの毎日の暮らしは、たくさんの「ルール」によって成り立っています。例えば、お店で買い物をする時の決まり、働く上でのルール、交通ルール、学校の規則など、数えきれないほどのルールの中で私たちは生活しています。これらのルールのうち、特に国全体に関わる、最も大切なルールのことを「法律」と呼びます。
法律と聞くと、なんだか難しそうで、自分たちの生活とは関係のない遠い世界の話のように感じるかもしれません。しかし、実は法律は、私たちが税金を払うこと、道路を安全に渡ること、大学で学ぶこと、スマートフォンを使うことなど、身近なあらゆることに深く関わっています。例えば、消費税の税率や、アルバイトの最低賃金、運転免許を取得するためのルールなども、すべて法律で定められています。
では、この大切な「法律」は一体どのようにして作られるのでしょうか。誰が、どんなプロセスを経て、私たちの生活に影響を与えるルールを決めているのでしょうか。この疑問に答えるために、ここでは法律ができるまでの流れを、政治や選挙に全く知識がない方でも理解できるように、丁寧にご説明します。
法律を作るのは誰?「国会」の役割
日本で法律を作る唯一の場所は、「国会(こっかい)」です。国会は、私たち国民が選挙で選んだ代表者、つまり「国会議員(こっかいぎいん)」が集まって、国の重要なことを話し合い、決める場所です。国会は、大きく分けて「衆議院(しゅうぎいん)」と「参議院(さんぎいん)」という二つの院で構成されています。これは「二院制(にいんせい)」と呼ばれ、一つの法律案を二つの視点から慎重に検討するための仕組みです。
法律を作る中心的な役割を担うのは国会議員ですが、実は法律の「案(提案)」を出すことができるのは、主に二つの主体です。
- 議員(ぎいん): 国会議員自身が法律の案を考え、提出します。これを「議員立法(ぎいんりっぽう)」と呼びます。
- 内閣(ないかく): 国の行政を担当する内閣も、法律の案を作成し、国会に提出します。内閣総理大臣や各省庁の大臣などで構成される内閣が作る法律案は「閣法(かくほう)」と呼ばれ、提出される法律案のほとんどを占めています。
では、これらの主体から出された法律案が、どのようにして正式な「法律」となるのか、その具体的な道のりを見ていきましょう。
法律ができるまでの具体的なステップ
法律ができるまでには、通常、いくつかの段階があります。少し複雑に感じるかもしれませんが、一つずつ見ていけば大丈夫です。
ステップ1:法案の提出
まず、法律の元となる「法案(ほうあん)」が作られます。法案には、新しいルールを作る内容だけでなく、既存の法律を改正する内容なども含まれます。この法案は、前述の通り、議員または内閣によって国会に提出されます。
ステップ2:委員会の審議(しんぎ)
提出された法案は、まずその内容に関連する「委員会(いいんかい)」で詳しく話し合われます。委員会は、特定の分野(例えば、経済、教育、厚生労働など)に詳しい議員が集まって、専門的に法案を検討する場です。
委員会では、 * 提案者(法案を提出した議員や内閣の代表者)が、なぜその法案が必要なのか、どんな目的があるのかを説明します。 * 委員会のメンバーである議員たちは、法案の内容について質問し、疑問点や問題点を明らかにします。 * 必要であれば、専門家や国民の代表者から意見を聞くこともあります(公聴会(こうちょうかい)など)。 * 十分に話し合った後、法案に賛成か反対かを決めます(採決(さいけつ))。ここで法案が承認されると、次の段階に進みます。
この委員会での話し合いのことを「審議」と呼びます。法案の内容をじっくりと、多角的に検討するための非常に重要なステップです。
ステップ3:本会議(ほんかいぎ)での審議と採決
委員会で承認された法案は、その院全体の議員が集まる「本会議」にかけられます。
本会議では、 * 委員会の委員長が、委員会でどのような話し合いが行われたか、どのような結論になったかを報告します。 * その法案に賛成する議員と反対する議員が、それぞれ自分の意見を述べます。 * 最後に、出席した全ての議員が、その法案に賛成か反対かを決めます(採決)。
本会議での採決の結果、賛成が過半数を超えれば、その院での審議は通過(可決(かけつ))となります。
ステップ4:もう一つの院での審議
日本は二院制ですので、衆議院で可決された法案は参議院へ、参議院で可決された法案は衆議院へと送られ、もう一つの院でも同じように委員会と本会議での審議が行われます。
これは、一方の院だけで拙速に法律ができてしまわないように、より慎重に、多角的な視点からチェックするための仕組みです。
ステップ5:両院の意見が異なる場合
もし、衆議院と参議院で同じ法案について違う結論(一方が可決、もう一方が否決など)になった場合は、「両院協議会(りょういんきょうぎかい)」を開いて、両院の代表者が集まって話し合い、意見の調整を試みます。
しかし、最終的に意見がまとまらない場合、衆議院でもう一度採決を行い、出席議員の3分の2以上の賛成があれば、衆議院の議決が国会の議決となる仕組み(衆議院の優越(ゆうえつ))がとられる場合があります。ただし、これは憲法改正や予算、条約の承認など、重要な事項に限られます。一般的な法律案の場合は、衆議院で再び可決されても参議院が否決すれば、原則として法案は成立しないことが多いです。
ステップ6:法律の成立と公布(こうふ)
両方の院で同じ法案が可決されれば、その法案は「法律として成立(せいりつ)」します。
成立した法律は、最後に国民に知られるために「公布」されます。公布とは、法律の内容を官報(かんぽう)という国の機関紙に掲載することです。官報に載って初めて、その法律は正式に国民に効力を持つことになります(施行日(しこうび)が定められている場合は、その日から効力を持ちます)。
なぜこんなに手間がかかるの?
法律ができるまでには、たくさんのステップがあり、時間もかかります。なぜ、もっと簡単にルールを決めないのでしょうか。
それは、法律が私たちの生活や社会全体に大きな影響を与えるものだからです。簡単に決めてしまうと、思わぬ問題が起きたり、一部の人にだけ不利益が生じたりする可能性があります。
国会での丁寧な審議プロセスは、様々な立場の議員が議論し、法案のメリット・デメリット、問題点などを徹底的に洗い出し、より良い法律、多くの人にとって納得できるルールを作るために不可欠なのです。
法律ができるプロセスを知ることの意義
法律ができるまでの流れを知ることは、政治が私たちの生活とどう繋がっているのかを理解する第一歩です。選挙で私たちが投票する国会議員は、この法律を作るプロセスに参加し、私たちの代表として議論を行っています。
どの候補者や政党が、どのような考えに基づいて、どんな法律を作ろうとしているのかを知ることは、私たちが投票先を選ぶ上での大切な判断材料となります。また、法律ができるプロセスに関心を持つことで、ニュースなどで報じられる政治の動きが、より身近で理解しやすいものになるでしょう。
まとめ
この記事では、私たちの生活に深く関わる法律が、どのようにして国会で審議され、成立するのか、その基本的な流れを解説しました。
- 法律を作るのは国会(衆議院と参議院)。
- 法律の案(法案)は議員や内閣が提出する。
- 法案はまず委員会で専門的に審議され、その後本会議で話し合われ、採決される。
- 両方の院で可決されて初めて法律は成立する。
- 成立した法律は公布されて効力を持つ。
このプロセスは、国民の代表である国会議員が、私たちの生活や社会全体のことを考えながら、慎重にルールを作っている証です。政治は遠い世界の話ではなく、法律という形で常に私たちの身近に存在しています。
もし、あなたがこれから初めて選挙に参加する機会を得た際には、今回学んだ「法律ができる仕組み」を思い出しながら、候補者や政党の政策(どんな法律を作りたいと考えているか)に注目してみてはいかがでしょうか。それが、あなたの1票をどこに投じるかを考える上で、きっと役立つはずです。政治への関心を持つことが、より良い社会を作るための一歩につながります。